神戸マリナーズ厚生会の委託研究により作成「船員のメンタルヘルスとハラスメント対策」です。ぜひご活用ください。(個人、個別の組織で使われる場合コピー無料です) ⓒSHUJI HISAMUNE
この冊子について
船員のメンタルヘルスとハラスメントの対策を漫画と、コラムで交互に載せています。他人事だと思わないで、自分自身と、家族、船の仲間のためにも、ぜひ対策を実践してみてください。
皆さんで閲覧して、ストレス対策、ハラスメント対策にご活用ください。
メンタルヘルス対策編
船はブラック企業でしようか ?
海や大自然に囲まれた労働環境、毎日混んで電車や車で通勤しなくても良い
などなど海が好きな人や、船の労働環境に憧れ 船員になる人も数多くいます。
人は十人十色 いろいろな考え方があります。
もちろん狭いかスペースや人間関係は嫌だと言ってやめる人も数多くいます。
新しく船員を迎え入れすれも「仕事は身体で覚えるもの、いちいち聞いて
くるな」、船は昔からこうだ。口答えするな。黙って言うこと聞け」
働く人の意識が変わり、管理方法もいろいろと変化しています。
旧態依然の考え方では、人はついてこないのではないでしょうか
お互いの立場を考えて働きやすい環境を考える事が重要になってきます
「うちはブラック企業」と思っているのでしたら、その要因を作っているのもあなた自身かもしれません。良くするためには話し合いの機会を作るとともに、作業方法や職場環境をできることからみんなで相談しながら改善していきましょう。
将来はAI化
科学技術の発達により、様々な仕事でAIが導入連れつつあります。
自動運転化も検討されていますし、将来はロボット船員に変わるのはないでしょうか
よくよく考えてみますと、船の仕事は様々不確定要素があります。
日々変わる風や波の海象を的確に判断をしなければなりませんし、航海や、出入港では的確な判断が必要になってきます。
荷役や漁労もその日、その場の状況に合わせた的確な判断が必要になります。
AIは複雑なデータを把握して分析しますが、海にはいろいろな要素があり、把握するのが難しいかもしれません。
実際には、まだまだ船員の皆さんが活躍する場は長く続きそうです。
そのために、良くするためには話し合いの機会を作るとともに、作業方法や職場環境をできることからみんなで相談しながら改善していきましょう。
船にはいろいろな船員が乗っています。
同じ国の人だって、生まれ育った地域性や、育った環境によって大いに異なってきます。同じ日本人でも、北は北海道から南は沖縄まで、いろいろな習慣があり、それぞれで考え方も異なってきます。それが、同じ仕事をするわけですから、当然考え方が違ってきても仕方ありません。
そのために、よく会話するなどのコミュニケーションを図る必要があります。船は協調していかなければ上手く航海できません。
エンジンをよくみてください。ピストンが音を立てて激しく動いています。しかし、ちゃんと順番通り、秩序良く動いています。みなさんがもしピストンだったら、いやだとか、むかつくだとか、頭にくるとか言って、激しく動いたり、動かずに止まっていたら船は動くでしょうか。エンジンが壊れてしまいますね。 次に船全体を見まわしてみましょう。
主機も、発電機も、油圧もそれぞれが大切な役割を果たしています。どれ一つ欠いても船は動きません。どれも欠かさない物です。
それなのに、主機が「俺が一番偉いんだ。俺の言うことを聞け」、発電機が「主機はただでかいだけだ。俺が一番すごい。あいつの言うことなんて聞くな」なんて言ったら、船は動くでしょうか。
船員は誰でも、船のパーツが一つでもなくなれば船が動かなくなることを知っています。だから、一つ一つの部品を大切にします。なのに、なぜ人を大切にしないのでしょうか。
「あいつは若いからダメだ」、「あいつは考え方が古い」ひどい時には排除しようとします。主機や発電機と同様に、船の乗組員も誰も欠かすことができないものです。人は好き嫌いによって「いじめる」、「無視する」などをするのでしょうか。
人のことを認めても、自分が劣ってしまうことはありません。
人が辞めてしまえば、それで船は動かなくなります。
少子化がすすんでいるためにすぐに人は集まらない。
多少の好き嫌いがあってもみんなで話し合う機会を作るべきです。
昔から人によっては、我を張ったり、偉ぶったりします。
それで相手が嫌がれば今ではハラスメントになります。いろいろ言われて、能力を発揮しなかったり、おかしくなったら大変です。
「昔はどうだった」と言わずに、新しいやり方を考えてみる必要があります。よく話し合って、船を進めましょう。また、ストレス低減するように職場環境を改善していきましょう。
他人のためといっても、相手が理解をしていなければ上手くいきません。ベテランと若手の年齢が離れている中で、自分たちの受けてきた指導法が、今はパワハラになることがあります。相手と意思疎通をすることが重要です。
船は3月以上の連続の乗船する場合もあり、特に小型内航船の少人数乗組における職住一体となっています。
(具体的な会話での注意例)
・決めつけた言い方をしない(先入観で物を言わない)。
・自分がやられて嫌だった、嫌がることを相手に押し付けない。
・自分の言葉を相手がどう受け止めるか考えてから話をする。
・仲間外れにしない。無視をしない。
・お互いに、話しやすいこと(天気など)から話をする。偉そうな態度を取らない(上から目線の物の言い方はしない。)
居心地の悪い船は、船員が定着しません。常識を逸した嫌がらせなど、ひどい仕打ちを受けたらその場からの離脱も選択肢にあります。人がいなければ船を動かすことができません。トゲのある言葉や行動は、結局自分の身に返ってきます。管理する側は特に、相手の身になって理解することが必要です。
海上の作業は危険が伴うことも多く、事故や怪我の防止のために、不安全行動をとる場合や緊急事態には大声などによる指導も必要です。
相手をさげすましたり、いじめるために大声を出すわけではないのです。
相手の命を第一に考えて、大声を出すこともあるわけです。
なぜ上げたか後で必ずフォローをしてください。みんなで話し合ってリスクを低減させてください。そのためにWIB船内向け自主改善活動が、国交省、水産庁により進めたられており、成果も上がっています。
<船内向け自主改善活動(WIB)の実施例>
〇会社が変わる
会社を経営する人はもちろんのこと、会社で働く人は誰でも、安全でストレスのない職場を求めています。
しかし、それを実現しようとすると、どうやって良いかわから
ないし、実現は難しいと考えがちです。
勉強の仕方がわからない、勉強する時間もない、自分だけ勉強しても周りがついてこない、お金がないなど、ついできそうもないと感じてしまいます。本当にそうでしょうか?
陸上より労働災害の多い船舶で、簡単なツールをつかって、全員参加で継続的に改善を実施して成果を上げている会社があります。そのためにそれは船内向け自主改善活動(WIB)を導入しました。
広島県の土石運搬船会社(7隻を配乗)の会長は、WIB導入の成果を以下の様に述べています。
「以前は現場を回り細かいことまで注意していた。社員におそれられていたが、それが社長の役割と考えていた。
WIBを導入して、少しずつ現場で改善することが定着してきた。2年目には全社で70件の改善が出された。
現在も船員が自主的な改善を進めている。従来は専門業者に任せていた作業も、自分達でするようになった。私自身は息子に社長を譲り会長になったが、現場の船員たちに、今までの経験を認めてもらい、各船からアドバイスに来てくれと声をかけられている。船員が自ら求めているので、いろいろな技術を伝承されている。大変ありがたいことだと思っている。」
また、島根県のフェリー・旅客船会社社長も以下の様に述べています。
「以前は船員の講習会への派遣を最低限にしていた。社長が変わり、業務命令でWIBの講習会にほぼ全員の船員が参加し、内容がわかりやすく進め方も簡単であったために、認証を受けた。
社員の意識も変わり、良い事でも悪い事でも積極的に報告が上がる。地元の会合に出ても、会社の雰囲気が良くなったと評判であった。WIBは、安全な労働環境を形成するために船員と話し合いを持つ良い機会になった。今後も継続して実施をしていきたい 」
以上は、労働災害の防止に向けたWIBの取組事例ですが、船員のメンタルヘルスの向上のためにも、メンタルヘルス改善チェックリストを活用したWIBの取組を実施して、あなたの会社もぜひ安全でストレスのない職場を実現してください。
<職場見回りチェックリストチェックリスト>
このチェックリストはメンタルストレスを低減するためのチェックリストです。
現在、多く使われているメンタルヘルスチェックリストは、ストレスの度合いを測るものですが、本チェックリストは、ストレスの低減を目指して、生活を改善する対策志向型チェックリストです。併せてパワハラの改善にもなります。ぜひ、職場で活用をしてみしください。WIBチェックリストと合わせてご活用ください。
メンタルヘルス改善チェックリスト
チェックリ ストのチェック項目に目を通して、項目ごとに進めてください。
改善が必要となった場合、項目に記述されている内容が、改善の具体的方法を示しています。
チェックリストのチェック項目に目を通して「すでに実施」「提案します」「優先」にチェックしてください。1~12項目のうち「提案します」の□にチェックをつけた中で、「優先」が付いている中から優先順位が高いものを3つ選んでください。
WIBチェックリスト オプション 職場見回りチェックリスト
メンタルストレス版
グループミーティングによる改善の実施
「健康チェックリスト」をグループ全員で実施してみてください。
次に優先的に改善すべき事項を部署毎に話し合いをして3つに絞ります。
まずは、その3つについて実際に改善していきます。それを下記フォローシートに記入しましょう。
次のステップとして、「フォローシート」に改善すべき自分の職場にあった実施方法、期間を記入します。必要なものがあれば会社と話し合って手配してください。
実施した結果どのようだったかを記入して、もし、うまくいかなかったら、備考欄に次にどうするか、記入しましょう。うまくできたら、社内で表彰するのも促進する方法です。
チェックリストとともに保管をしましょう。
初めに挙げた3つの改善が終わったら、次の3つの改善項目を選んで継続的に実施します。
チェックリストによる点検を定期的(年数回)に実施して、改善活動を継続的に行います。
表 フォローシート
改善すべき項目 |
実施方法 どのようにするか |
期間 いつまでにするか |
結果 どうだったか |
備考 さらに、どうする |
1. |
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2. |
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3. |
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ハラスメント対策編
暴力的な言葉からは何も生まれません。
〇ストレスをなぜ感じるのでしょうか。
原因として、以下のような理由があげられます。
・自分の思い通りにならない
・思ったことをやってくれない
・みんなが理解してくれない
・言うことを聞かない
・違うことを言ってくる
・先に進まない 。
では、ストレスを低減するにはどうすればよいでしょうか・・・
・世の中が自分の思い通りになる→それは無理、
→自分の思い通りにならなくても気にしない。
・落ち着いて、自分のできる範囲で他者とコミュニケーションを
とり、見返りを気にしない。
「人の一生は、重荷を負うて遠き道をゆくがごとし。急ぐべからず」 (徳川家康)
相手に過剰に期待せず、いろいろな事にも過剰に期待しなければストレスは下がります。他人は自分の考えた通りに動きません。自分自身が他人の考えで動かないのと同じです。要は自分の気の持ちようです。他人に過剰な期待をしないで、まずは自分のできることから、やってみます。お互いに、理解しようという気持ちで接します。
個人でコントロールできるもの ⇔ 頑張る
(例)勉強 技能の習得 等
コントロールできないもの ⇔ 期待通りでなくても気にしない。
(例)人間関係 環境 社会的事象 過去の出来事
ここで、ご自分の怒りの感情をそのまま口に出すとどう感じるか、最後にあるハラスメント体感ゲームを是非お試し下さい。
このゲームには、管理職と若手の船員両方で参加してみて下さい。
男性的職場のストレス解消法
異性交流を楽しむのは、男性ばかりではありません
女性もストレスが持って言います。
漫画のように、船用金を使って飲みに行くのは問題ですが
自分のお金で、同性同士が飲みに行ってストレスを解消する
何も問題はありません。
陸上の会社でも同じような光景が多々見られます
「○○女子会など」
ストレスをためて大切なお金を飲み代に使わないように
職場でも工夫が必要と思います。
<キャリア形成への心構え>
すぐには技能が身につくものではありません。
海技免許を取っただけではなく、現場で船を動かすにはいろいろな技術が必要になります。
中学や高校の新入生のころを思い出して下さい。
初めから何もかにも上手くはいきません。
先輩たちからいろいろと吸収していきましょう。
先輩が怖い、確かにそうかもしれません。
自分が持っているイメージと異なると、不満になります。
また、なかなか技術を覚えられない自分にも不甲斐ない。
それがまた、イメージと異なり不満になります。
相手は期待通り動かない、自分もすぐには覚えられない。
そのような状況を踏まえて。自分のできることを一歩ずつやっていきましょう。
<自分自身の分析をしてみましょう>
あなたは自分自身についてどのようなイメージをもっているでしょうか。自己概念(セルフ・イメージ)を誰でも持っているはずです。
紙と鉛筆を用意して(またはパソコンなど)「自分は・・」どんな人間かを書き出してみましょう。
自己分析をすると、
・自分を肯定的にみる・・・肯定的に行動する
・自分を否定的にみる・・・否定的に行動する
傾向があります。
つまり、自分のことを、自分で勝手にイメージを作ってしまうことがあるわけです。その自分で作り上げた勝手なイメージが、自己の成長を妨げてしまいます。
例えば、「俺は悪くない」と言い訳をして、他人のせいにしたり、「俺は難しいことはわからない」、「俺は能力がない」と口実、弁明をしてできないことを正当化します。
でも「悪くない」、「できない」といった正当化は、自分で判断しています。努力して乗り越えなければならないことを、言い訳を言うことでやめてしまっているのです。
「言い訳」ばかりの人がいると、職まずは、言い訳をするのではなく、努力することが大切です。
ラインケアによる仕事の進め方>
例えば、仕事を良くしようとする時、
自分「改革しようとする」→相手「めんどくさい」
自分「こうすべきだ」→相手「俺にも言い分がある」
相手から抵抗がある、同意を得られない
(なんで、良いこと言っているのにわからないのだ)
と怒ってしまうかもしれません。
このような場合、どうすれば良いでしょうか?
成功例
相手の話を聴く、そして自分の話を聴いてもらう
自分「今のままでいいかな」→相手「今のままではまずい」
自分「なにかしなければいけないね」
→相手「どうすればいいかな」
自分「こういう方法もあるね」
→相手「それはいいかも知れない」
相手から、こうしたほうが良い、こう思うとの意見を引き出すことがポイントです。
また、相手の話を真剣に聴くと相手の共感を得られるほか、自分では気づかないヒントをたくさん得ることができます。
ハラスメント体感ゲーム
パワーハラスメントを理解するために、研修用のプログラムです。
隣同士など二人一組になって、交代で声を出して読んでみてください。
「あなたはミスをして、先輩社員から以下のような言葉を言われました」
1.だいたい、すぐにサボる
2.そもそも、やる気がない
3.いつまでたっても、同じ間違えをする
4.常日頃、真剣味が足りない
5.何度言っても、分からないのだ
6.何年たっても、覚えない
7.昔は、上司の背中を見て自分で覚えた
8.若い頃は、叩かれたりどなられて覚えた
9.そんなんじや、いつまでたっても一人前になれないぞ
10.俺は聞いてない
11.俺のいるうちは許さない
12.俺は認めない
13.どの顔さげて来たんだ
[質問1] あなたはどのように答えますか?
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[質問2] あなたは、その言葉をどのように感じましたか?
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[質問3] あなたはそういわれてやる気になりましたか?
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l いずれの言葉も、聞かされた本人はよい感情はもてません。
l 発言した本人のストレス解消、自己満足的ではないでしょうか
ハラスメント体感ゲームをされていかかでしたか。
自分はあたり前のように言っている言葉を、相手から言われると非常に不快な思いをしませんでしたか。
この漫画の様に、何言っても構わないと思ったことが、実は相手は飽きられていて、すでに自分のことを見放していたようです。
「言霊」と言うことばがあります。
よい言葉を伝えると、相手に良い気持ちが伝わるし、悪い言葉を話していると悪い気持ちが伝わります。
言った言葉か相手に伝わっていくのです。
「船乗りは昔から口が悪い」、「俺はそうやって育ってきた」と思わずに、相手のことを考えて、余計な事は言わずに、話をしてください。
船員版
メンタルヘルスと
ハラスメントの対策
発行
一般財団法人 神戸マリナーズ厚生会
神奈川大学工学部経営工学科 教授 久宗周二 編
イラスト 筒井南帆
本冊子は、一般財団法人神戸マリナーズ厚生会から
神奈川大学への委託研究により作成、発行しました。
令和2年3月
不許可転載、転用
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一般財団法人 神戸マリナーズ厚生会